第13章 『野望』

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合田の話を河田は黙って聞いている。 「現状でこれ以上、北朝鮮に核保有を増大させる可能性を高めさせるのはどうかと思うんだ。中国や韓国、アメリカなどの事も考えないといけないし……だが、日本海油田、これは我が国が絶対獲得する必要がある。いかなる犠牲を払ってでも死守しなければならない」 「70年分の産出量ですからねぇ」 「そうだ。全世界に於ける石油の埋蔵量が後30年分と言われる中、これは最大の魅力だ」 「確かに。それだけの使用量があれば、その間に代替エネルギーの開発も進むでしょうし」 「どうだろう、附款(ふかん:本条約とは別の取り決め)条項で、まずは原発1基を日本政府が70パーセントの出資で作って譲渡し、その10年後にもう1基、更に5年後にもう1基、北朝鮮側に建設を認めるというような方向で行くというのは……」 「そうですね、一度、閣議(*)に掛けて意見を聴いてみましょう」 (*)閣議 内閣は各省の大臣と総理大臣が話し合って行政の仕事を決める。これを閣議と言って、原則として全員一致でなければならない。 「うん、頼むよ……そうそう、産田重工業の方はどうなってる?」 「こちらも順調に進行しているとの報告を受けています」 「そうか。これが我が国、最後の防御壁といえるものだからな」 「はい……それと憲法改正も」 「これは次の国会で是非とも通して、来年の秋には何とか国民投票にもって行きたいものだがな」 「そうですね……総理もお忙しいでしょうからこれで失礼します」 「ご苦労さん」 河田が出て行った後に、合田は秘書の青山を呼ぶ。 「これから私用があるので20分間は誰とも取り次ぎを行わないよう、頼むよ」  「分かりました」
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