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〔2〕
産田重工業の本社は神奈川県秦野(はたの)市にある。
産田家の祖は長州出身で明治維新の富国強兵の国策の下、軍事部門で勢力を伸ばし、5大財閥の次、『準財閥』として数々の戦争に武器を製作、提供して莫大な財をなして来た。
太平洋戦争敗戦後、財閥解体は辛うじて逃れたものの、軍事部門の廃業とともにかなりの縮小を余儀なくされる。
その後は、鉄鋼業を中心に盛り返し、鉄道、車輌、造船、飛行機などの製造分野に力を注ぎ、現在では唯一戦闘機を製作する事が許され、全て自衛隊に納入している。ただし、近隣諸国の感情を考慮して年間20機以内という厳しい制限を受けていた。
常に政治家との癒着(ゆちゃく)が噂され、事実、過去3人の社長が出資法違反、政治資金規制法違反、贈賄罪で逮捕され、有罪判決を受けている。
坂本は今、戦闘機を製作している秦野工場に取材に向かっていた。
「…(取材しろって言われたってどこから取材して良いか分からないし、第一、あんな機密だらけの工場に入れるわけないだろう、バカデスク)」
社の車を首都高から東名高速に乗り入れて厚木インターチェンジを目指す。
「…(それにしても高見さんの資料が全くないというのはなあ……決定的な証拠がなければ特ダネにならないし……家にも社にもない。あんな重要な資料をカバンに入れておく訳ないし、コインロッカー、貸し金庫または誰かに預けたか)」
気づけば、フロントガラスから見える前方の雲行きが怪しくなって来ている。
「…(久しぶりの雨? ここ20日間ぐらい降ってなかったし、良いお湿りでもあるよな。コインロッカーや貸し金庫じゃどう手を付けて良いか分からないし、取り敢えず、高見さんの友人から当たってみるか)」
そんな事を考えているうちに、落ちて来た雨粒がフロントガラスで踊り出す。
「…(おっ、降って来た)」
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