第13章 『野望』

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「…(電話は1件。デスクから……それとメールが2件。誰だ?……なあんだ、明美ちゃんと嫁か……明美ちゃんは『また来てね』……んで、嫁は……『翔が熱出したので病院に行きます』……まあ、平和なメールだ事……それにしても、今だに高見さんのメールが謎なんだよなあ)」 坂本は保護にしてあるメールを画面に呼び出す。 『 坂本へ 苦渋(くじゅう)の選択の後に我らはサタンと手を結ぶ 右を見ても地獄、左を見ても地獄 ならば光を求めよ 光は我らの足元にある その時、神ペリウスは我らに微笑むか   』 「…(これが送られて来たのは高見さんが死ぬ前日……あの日は朝から来日していたドイツの蔵相に付きっ切りで意味を聞く事ができず、次の日も高見さんに会えなかった。そしたら、その日の晩に……)」 見ていた画面の上に涙が一雫(ひとしずく)落ちる。 「……『ぐすっ』……(奥さんに友人の事、聞こう)」 雨足はさっきより強くなっており、ボンネットに大粒の雨が叩き付けられていた。                                  高見の自宅の電話番号にタッチして携帯を耳に当てる。        『はい、高見です』 「私、東日の坂本と申します。生前は高見さんに大変お世話になりまして……」 『坂本?……以前にも一度お電話を頂いた方ね』 「はい、お通夜の時に軽く挨拶した程度でしたので覚えてないかと思いますが……」 『ごめんなさい。高見は家で仕事の話は一切しなかったし、家に誰も連れて来た事がなかったものですから、社の人とは全く面識がなくて……』 「いえいえ、それは私も全く同じですから……今日、お電話したのは、実は、私、高見さんの取材を引き継ぐ事になりまして、高見さんが集めていた資料が必要となったのですが、社に見当たらないものですから……」
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