第2章 『記憶』

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「そう。最初は救急車を呼ぼうと思ったんだよ。顔見たら血だらけだし……ところがね、深夜なのに、革靴の走り回っている音がしたの」 「それはひとり?」 「ううん、正確には分からないけど大勢いるみたいだった」 「それで追われていると !?」 「うん。顔見たら悪そうな人に見えなかったから、急いで私の部屋まで引き摺り入れたの」 「それで俺は裸なんだ」 「ごめんなさい。Tシャツとジーンズがぼろぼろになっちゃったのよね」 「あはははっ、良いって良いって。それで命が助かったんだから……」 なぜ、沙也加のマンションに転がり込んだのか、その理由は分かったが、どうやってここまでやって来て、そして、誰に、なぜ追われていたのかはまだ不明のままであった。 「本当にごめんなさいね。あっ、もう着替えて出ないと……」 沙也加は自分のと卓司のコーヒーカップを持って立ち上がり掛ける。 「それでさ、世話になっていてなんなんだけど、もう少し居て良いかな?」 「うん、良いわよ。同じ東北のよしみだし……自分の部屋だと思ってくつろいでね。でも、変な事しちゃダメよ」 「ないない。この体じゃ、襲うにも襲えないよ」 「そりゃそうか、きゃはははは……」 可愛らしい女性であったが、時折、見せる男らしい言葉遣いや仕草が少しだけ気になった。 「それと、悪いんだけどさ、携帯の電話代払って来てくれないかな。この体じゃまだ動けそうにないし」 「良いけど、どうするの?」 「俺の携番を教えるから、俺の加入している携帯ショップに行って払って来てくれないかな。俺の携番を言えば払えるはずだから。それと充電の方も頼むよ」 「うん、分かった」 卓司は財布から10万円を取り出すと、携帯とともにそれを沙也加に手渡す。 「え~っ、こんなに掛かるの?」
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