第2章 『記憶』

7/9
3284人が本棚に入れています
本棚に追加
/386ページ
〔2〕          「いや、そんなに掛からないとは思う。ただね、先月分を払った記憶がないから、多分、3万円ぐらいにはなると思うんだ」 携帯を充電してみないと分からなかったが、電話代未納で使用停止になっている可能性があった。 「残りは?」 「君にあげるよ」 「えっ、本当 !?」 「うん、世話になっているお礼に……」 「きゃーっ、嬉しい」 沙也加は嬉しさの余り卓司に飛びついて来るが、卓司はその勢いに押されて倒れ込んでしまう。 「いてててっ……」 「ご、ごめんなさい」 「いや、いいよ。こういう痛みなら大歓迎さ」 「うふふっ。じゃ、私、着替えるね」 「それでさ、テレビを見たいんだけど……」 誰にも行き先を告げずに出掛けて来ており、しかも、ここ数日寝っぱなしだったので世の中の情勢を知りたかった。 「テーブルの上にある細長いリモコンがそうよ」 そう言うと沙也加は流しにコーヒーカップを置いた後、着替えを持って洗面所の方に姿を消した。 「…(これか)」 卓司は手に取ったリモコンを35インチほどの大きなテレビに向け、あちこちチャンネルを変えて行く。 「…(殆どがワイドショーか)」 またチャンネルを変えようとした時、知っている名前が画面にチラッと見えたような気がして、慌ててチャンネルを元に戻す。 『……の事件は、未だに謎の部分が多く、警察も事故、自殺、他殺の面から慎重に捜査しております』 大きな画面に映し出された、マイクを右手に持った中年の男性レポーターがどこかの現場と思われる場所から中継をしており、画面右上のテロップには『新聞記者、謎の死』とある。そして、画面が、その新聞記者が勤めていたと思われる新聞社に切り替わり、ビルの1階正面玄関のところにある社名が表れる。 「…(『東日(とうにち)新聞』……高見の勤めている会社じゃないか)」 『さて、先日亡くなられた高見……』 「何だって、高見が死んだ?」
/386ページ

最初のコメントを投稿しよう!