第2章 『記憶』

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「どうしたの、大きな声を出して?」 卓司の声に驚き、着替えを終えた沙也加が洗面所から飛び出して来る。 「友達が死んだ」 「えっ、どういう事?」 「さっぱり分からん」 「あっ、もう出ないと……帰ってから話を聞くから。無理しちゃダメだよ。夕飯は店屋物でも取れば良いから……」 そう言い残して、やや濃いめの化粧をして綺麗に着飾った沙也加が心配そうな顔をしながら部屋を出て行った。 「…(一体、どうなっているんだ? 何が何だかさっぱり分からない。なぜ高見が死んでいる? 10日前に会った時はあんなに元気だったのに……)」 事の真相を知る為、もう一度テレビを見る。テレビが伝えた事は次のような事であった。 7月21日の早朝、『横浜埠頭』に釣りに来ていた人が海に浮かんでいる死体を発見。直ちに警察に通報して死体を引き揚げる。所持していた社員証から『東日新聞政治部記者 高見昌也(35)』と判明。 直ぐ様、司法解剖が行われ、死亡推定時刻は『7月21日の午前2時~4時の間』と分かる。 目立った外傷はなく、多量のアルコールが検出され、当初は泥酔による溺死とも考えられた。 ところが、東京都世田谷区に住む家族から、その日は『横浜に行く』とは聞いてないと事故死説を否定。更に、自殺する原因には全く心当たりがないと自殺説も否定。 一方、東京都中央区銀座にある東日新聞社側もその日は夜の10時に会社を出たが、同僚に『真っすぐ家に帰る 』と伝えていた事を明かし、同じく事故死説を否定。 そこで、現在、警察も事故死、自殺、他殺の三方面から慎重に捜査しているという事であった。 「…(という事は、大月や北川達も俺に電話しているはず……沙也加ちゃん、ちゃんと電話代を払ってくれたかな)」
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