第3章 『疑惑』

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〔1〕          『また電話に出ないなぁ、しょうがない奴だ。そうそう、T・S・エリオットの詩に 今や、国家存亡の危機。 狂った歯車はもう元には戻せない。壊すしかないのだ。 信じれるものは自己の影。信じられないものは他者の影。 集え、白亜の森に ってなかったっけ?……まあ、いいや。今度、飯でも食おうぜ。またな』 「…(なんだこりゃ、言っている意味が全く分からん。そもそも、T・S・エリオットって誰だ?)」 「今日はどうしてたの?」 再びピンクのジャージに着替え、髪の毛を後ろで1つにまとめた沙也加はフライパンをガスコンロに置いて火を点ける。 「う、うん。ずっと、テレビ見てた」 「友達の事?」 「まあ、そんなとこかな……」 直ぐに野菜を炒める音と香ばしい臭いが卓司の耳と鼻に届く。 「『タッキー』も食べる?」 「『タッキー』って?」 「あはははっ、紺野さんの事じゃない」 「俺?……初めてだな、そんな呼ばれ方したの」 「いいじゃん、年より若く見えるんだし……」 「そう?」 若く見えると言われて気分を害する人間はそうはいないだろう。 「…(ふふっ、若いか……でも、俺、年の事、言ったっけかな?)」 「で、どうするの?」 「何が?」 「や・き・そ・ば !!」 「少しご馳走になろうかな」 「でしょう、食事はみんなで食べなきゃ美味しくないよね」 何が『でしょう』なのかは分からなかったが、沙也加との会話が頭と心の痛みを和らげてくれたのは間違いなかった。
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