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深夜の2時過ぎ。卓司は皿に残っていた一口分の焼きそばを掻き込んで、グラスに入った水とともにそれを喉の奥へと流し込む。
「……ご馳走様。美味しかったよ。沙也加ちゃん、料理上手だね」
「えへへへっ、それ程でもあるでしょう」
沙也加は口の回りに青のりを着けて小さな口をモグモグと動かしている。
「あはははっ、変な日本語」
笑う事がこんなに楽しい事だとは思わなかった。楽しいから笑うのではない。笑う事で楽しくなれるのだ。
「それで、友達の方は?」
「うん、まあ……」
自分の身に起きた事に加えて高見の突然の死。戸惑いはまだ大きかったが、世話になっている以上、分かった事だけでも話した方が良いだろうとニュースやワイドショーで得た情報を話して聞かせる。
「……ふ~ん、どっちにしてもまだはっきりしないんだ」
「そんなとこ……少し、身の上話を聞いてもいい?」
よくよく考えてみれば沙也加の事については出身地と名前、キャバ嬢以外何も知らなかった。
「うん、いいよ」
「札幌に来た訳は?」
「いきなり核心?」
「あっ、ごめん」
「オッケー、気にしない、気にしない」
「…(どうも、この日本語にはついてけない)」
「どこから話そうかな……簡単に言うと、家が大嫌いで早く自立したかった」
「俺と同じじゃん」
「へぇ~~っ、タッキーもそうなんだ」
「俺も家が大嫌いで……特に父親が……」
「私は母親……」
母親が口煩(うるさ)いとか性格が合わないとかは稀に聞いた事があったが、嫌いだと言い切る娘には今まで会った事がなかった。
「お母さんが嫌いなんだ、珍しいね?」
「うん。本当のお母さんじゃないから……」
「そう、それは嫌な事を思い出させちゃったね、ごめん」
「うそぴょ~ん !!」
「コラッ、大人をからかうんじゃない」
「あはははっ、ごめん、ごめん。本当はお金が欲しかったから……」
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