第3章 『疑惑』

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「でも、被疑者や被告人が自殺するのって、多くはないけど珍しい事でもないんじゃない?」 先ほどから気にはなっていたが、法律用語や刑事事件にやけに詳しい。 「そうなんだけど、俺の場合、被告人が死んだのを悲観した妻が幼い子供を道連れに自殺してしまったんだよ」 「そうだったんだ。それっていつの話?」 「6年前」 「6年前っていうと、あたしが高3の時か……って事は、目黒で起きた強盗殺人事件でしょ?」 確かに当時、世間を賑わせた事件であったが、よく覚えているものだと思う。 「うん。質屋の老夫婦と従業員ひとりを殺した事件。でも、沙也加ちゃん、法律に詳しいね」 「へへ~っ、私の両親、実は弁護士なの」 「そうだったのか。話をしていて『変だなあ』とは思ってたんだ」 「あ~~っ、人を外見で判断してたでしょ」 沙也加は卓司を指差して可愛らしい唇を尖らせる。 「ごめん、別にそんなつもりはなかったんだけど」 「許す。だって、あたしも最初はタッキーの事、変なおじさんと思ってたもの。だから、おあいこ」 「変なおじさんか……まっ、血まみれで倒れてちゃ、普通そう思うよな」 「でしょ」 話していくうちに沙也加の事が少しずつだが分かり始めていた。      「じゃ、札幌に来てるのは?」 「半分、家出みたいなものかな」 「ご両親は札幌にいるって知ってるの?」   「言ってないから知らないと思う。でも、たまに連絡は入れてるよ。そう言うタッキーは田舎に帰ってるの?」 「いや、ここ10年は帰ってない」 「どうして?」 「仕事が忙しくて帰りそびれていたのと……」 「お父さんに会いたくない?」   「そうかも」 図星であったが、それを素直に認めるのはなぜか癪に障ったので曖昧な返事に留めた。 「お父さんってどんな人?」 「検察官でね、それは昔気質の厳しい人で、小さい時から物凄い苦手……」 「お互い、親で苦労して来たというわけだね」 「あはははっ、そういう事」 「真面目な親を持つと子は苦労するよね」            「それは言えてる、あはははっ……」 その後も2人の会話は続き、2人が寝たのは明け方近くであった。
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