第4章 『事実』

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「世話になっている沙也加ちゃんだから特別に話そうか」 「賛成、賛成、大賛成」 髪を整え、綺麗に化粧をした沙也加は嬉しそうな顔をしてテーブルの前までやって来て膝を崩して座る。 「麻衣子というのは俺が10年前に別れた彼女で、今はこの前死んだ高見の奥さん」 「なんか複雑そうね」 「そうでもないよ。単に麻衣子が俺ではなく高見を選んだだけ」 「じゃ、別れたんじゃなくて振られたんじゃない」 「アハハハハ、そうとも言う」 卓司は照れを隠すためか、冗談ぽく笑うが、沙也加の方は興味があるのか至って真面目な表情をしている。 「で、原因は何?」 「麻衣子の妊娠」 「って事は高見さんの子供?」 「うん。ただね、直接麻衣子の口から聞いた訳じゃないんだ」 「どうしてそうなっちゃったの?」 「麻衣子とは俺が大学3年の時に合コンで知り合ったんだけど、丁度その頃、俺、試験勉強を始めちゃってさ」 「司法試験?」 「うん。今考えれば知り合った時期が悪かったような気がする。最初の頃はなんとか時間を取って会っていたんだけど、そのうち、麻衣子と会う時間がもったいないと思うようになって……」 下を向いて携帯を見ていた卓司の顔には後悔とも見て取れる表情が浮かんでいた。そして、卓司の気持ちを察したかのような沙也加の言葉が続く。 「勉強を選んだんだ」 「そうなるかな。麻衣子は淋しさと不安とで俺との事を高見に相談するようになる。高見は、これがまた素晴らしい奴で、親身になって相談しているうちに……」 「お互いが好きになっちゃった。そして、妊娠」 「そういう事……」 「2人を許したの?」 「許すもなにも、恋愛は自由だろう。それに結婚していた訳じゃないんだし……」 「タッキーって大人ね」
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