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一応誉められているのだろうが、自分の選択が正しかったかどうかは未だに分からず、複雑な心境ではあった。
「まあ、それでも試験が合格してからの報告だったから助かったけど、そうでなかったら立ち直れなかったかも」
「でも、試験の為に麻衣子さんと別れたのに、その後、弁護士を辞めたんじゃ意味がないわよね」
「全くその通りで、返す言葉もない。結局、その後は恋愛らしい恋愛もしてないし」
「タッキー、可哀相。道に迷った子犬みたい」
その表現がこの場合、的確かどうかは定かではなかったが、真剣に話を聞いて自分を慰めてくれる沙也加が愛(いと)おしくさえあった。
「あはははっ、こんなでかい子犬はいないだろう」
「その後、麻衣子さんとは?」
「高見の結婚式の披露宴を最後に一度も会ってない」
「じゃ、今度会うとなると10年振りなんだね」
「そういう事」
「そう言う私もそんなに恋愛経験がないから、こういう場合、どんな言葉を掛ければ良いのか分からないけれど、まだまだタッキーは若いんだから諦めちゃダメだよ」
「はははっ、沙也加ちゃんにそれを言われるとは思わなかったよ」
中年オヤジと言われた直ぐ後に若いと言われ、その言葉に戸惑う卓司。沙也加は時間が気になるのか自分の腕時計を覗き込む。
「あたしもう出掛けないと。タッキー、ファイトだよ」
「ありがと」
沙也加はその後、部屋のスペアキーを卓司に手渡し、綺麗に着飾って出て行った。そして、卓司は2時間程ベッドに横になり、それから近くの警察署に出掛けて行った。
【札幌丸山南署】
卓司はこじんまりとした白い建物の前に立ち、一息ついて入り口の自動ドアを通り抜ける。
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