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入り口を入ってすぐ左側に長いカウンターがあり、何人かの一般人が警察官と話をしていた。卓司はその中から手の空いている若い婦人警官を見つける。
「あの~~っ」
「はい?」
呼び掛けられた若い婦人警官はにこやかな顔で卓司を見る。
「捜査1課はどこですか」
「そこを真っすぐ行った突き当たりの階段を上った2階にありますが、どういったご用件ですか」
「はい、実は……」
卓司は先日の横浜埠頭で死体であがった高見の友人で、横浜中央署が重要参考人として探している者である事、怪我ですぐには東京には戻れない事等を話す。
「ちょ、ちょっとお待ち下さい」
その婦人警官はカウンターを離れると窓際に座っている上司と思われる男の所に走り寄って行った。
2人は暫らく何事かを話していたが、やがて男の方が卓司の元に近づいて来る。
「どうも。私は、警務課の近藤と言います。話は部下から伺いましたが、この件は管轄違いで私達には捜査権はないのですが……」
「はい、それは承知しております」
「では、どうして欲しいのですか」
「私にはアリバイが無い上に、重要参考人として浮上しているという事は、少なからずともまずい立場にあります」
「ええ、まあそうでしょう」
「私が札幌に来た訳は依頼人に……あっ、私は私立探偵をしているのですが、黒部という人に札幌の、ある会社に書類を届けるよう依頼されたのです。ところが、その会社は存在せず、途中、何者かに襲われ、その書類を奪われてしまったのです」
近藤は俄(にわ)かには信じ難いというような顔をしている。
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