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近藤、署長と対面するように腰を下ろし、卓司は財布の中から『ヨレヨレ』の名刺を取り出して署長に手渡す。
「これはこれはご丁寧に……私立探偵をやってらっしゃる?」
「まだ駆け出しですが……」
「というとその前は何を?」
「…(ここで手の内全部を明かす必要もないだろう…)……別の仕事を少々。で、どうなんでしょう?」
「そうですねえ、まだ被疑者ではないし、我々には捜査権は無い上にこうして出頭しているわけですから……良いでしょう。但し、近日中に必ず事情聴取を受けるという約束で……」
「本当ですか、ありがとうございます」
「近藤君、横浜中央署に電話して」
近藤は立ち上がると、署長のデスクの上にあった受話器を掴み、中央署を呼び出す。
「署長、中央署の署長が出ました」
近藤から電話を受け取り、署長が事情を話し始める。
「……そうです、はい、本人も怪我が治り次第聴取を受けると言っておりますので……はい、そうですか、分かりました……はい、そう伝えます。では、失礼します」
再び右隣の近藤に電話を渡たす。顔は先程と違って穏やかな表情をしている。
「話を分かって頂きました。何でも、お父様が骨を折って下さったらしいですよ」
「親父(おやじ)、いや、父がですか」
「紺野さんも人が悪い。お父様は福島地検の検事正という事じゃないですか。そして、あなたは元弁護士……」
卓司は黙って署長の言葉を聞いている。
「身元がしっかりしているという事で中央署の方でも了承してくれました」
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