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「ここの602は?」
「この602から605迄はここ1年誰も入ってないよ。何せ、部屋に窓がないからみんな敬遠するんだよね」
「私、5日程前に、この602で人と会っているんですが……」
「騙されたんじゃないの?」
疑いの目を向けている初老の細身の男性に卓司は詐欺でない事を説明する。
「そう。お金は取られていないんだ。このビルの管理は結構いい加減なところがあるから、ほらっ……」
そう言ってその男性は602の部屋のドアノブを回す。
「あっ、開いた !!」
「ねっ、鍵を掛けてない事が多いんだよ。だから、内部事情に詳しければこの空き部屋を使って一仕事するくらいは簡単に出来るよ。昔、そんな事があって管理人を置いてたんだけど、経営の合理化と言って管理人置かなくなちゃったからね」
「そうだったんですか……中、少し見ても良いですかね?」
「ところで、あなたは?」
「あっ、申し遅れました」
卓司はまたもや『ヨレヨレ』の財布から『ヨレヨレ』の名刺を取り出す。
「……ふ~~ん、東京の私立探偵さんなんだ。なぜ、また札幌まで?」
卓司は604に書類を届けに来た事、その時、602で人に会っている事などを簡単に話す。
「へぇ~~そんな事があったんだ……『安田エージェンシー』とか『銀星』とかいう名前は聞いた事がないなあ……」
「そうですか。で、申し訳ないのですが、3、4分、一緒に中に入っていただけませんか」
「まっ、そのくらいなら構わないよ」
「ありがとうございます」
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