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中は電気がなければ物が見えにくいくらいに薄暗かった。『パッ !!』と電気が点くと物の見事に何もなく、この前見た風景はまるで夢から覚めたかのように綺麗に消え去っていた。
「やけに殺風景な事務所だとは思ったんですけどね」
卓司は疑惑の念を込めて呟(つぶや)く。それから、辺りを隈無(くまな)く見て回る。最後は床に這いつくばるようにして見るが……
「ダメですねえ。掃除機を掛けた後みたいにゴミひとつ落ちてないです」
一方、初老の男性はドアの所に立って紺野の行動を見守っていた。
「どうもありがとうございました」
「もういいのかい?」
「はい、結局は手掛かりはなしでした」
電気を消しドアを閉め廊下に出る。
「あの~っ、604の鍵が開いてるかどうかだけ確かめてもらえませんか」
「いいよ」
その男性は2つ隣りの604のドアノブを回すが、『ガチャガチャ』と音がするだけでドアは開かなかった。
「鍵が掛かっているみたいだね」
「そうですか。色々とありがとうございました」
「じゃあ、俺、行くから…」
卓司は一礼をしてその男性と別れ、エレベーター前までやって来る。
「…(ここで目眩[めまい]がしたかと思ったら後頭部を殴られたような衝撃が……でも、あの目眩はあの女性が出してくれたお茶を飲んだ後から……そして、倒れ込む時に確かに見たハイヒールは赤? えっ、白?………ダメだ、記憶が途切れて思い出せない)」
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