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「実は、先程言った、ひったくりに遭った際に、後頭部を強く殴らて、その後、一時記憶を失ったみたいで……それで、連絡を取らずにいました」
「ふ~~ん、記憶がねぇ……それじゃ、病院とかに入院してたのですか」
卓司の返答が斎藤にはどうやら胡散臭く感じられるようであった。
「いえ、親切な女性に助けられてその人の看護を受けてました」
その時、ドアが開いて鈴本が戻って来て、そのまま斎藤に耳打ちをする。
「……被害届けの件は確認しました……話の続きですが、記憶喪失のような重病で病院に行かなかった?」
「いえ、その女性が医者を呼んでくれました」
「という事は、診断書があるんですね?」
「…(沈黙はまずい、まずいが真実を話してもいいのか)」
「どうしました?」
卓司の沈黙は何か後ろめたい事があるからだろうと、斎藤は強い口調で問い質す。
「……その女性というのが『水商売』関係の人で、呼んでくれた医者が裏関係の医者でして……」
「という事は、無免許の医者、ですか」
「はい…」
「じゃ、当然、診断書もない?」
卓司はマズイと思いつつも頷くしかなかった。
「紺野さん、ここまでの話を聞いていますと、どうも真実味が全く無い、というよりは作り話に聞こえるんですよ」
「でも、札幌にいた事は事実です」
「それは分かっています。でもねぇ、紺野さんの話を総合するとですねぇ、仕事で札幌に行くが、その日のうちにひったくりに遭って怪我をする。そして、その4日後に高見さんの死に気付く。
そして、その4日間は記憶を失っていたと言うのですが、それを証明するものが無いんですよ。その間に高見さんが死んでいる。
これをアリバイが無いと言うんじゃないんですか」
「……アリバイならあります !!」
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