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今にも立ち上がらんばかりの勢いのある卓司の姿に鈴本は一瞬たじろぐが、そこは百戦錬磨の斎藤、その表情が変わる事は全くなかった。
「それはどんな?」
「…(沙也加ちゃんを巻き込みたくなかったけど、沙也加ちゃん、ごめん)……私を看護してくれていた女性に連絡が取れます。その人に聞いて下さい」
「分かりました。じゃ、連絡を取ってみて下さい」
卓司は『ボロボロ』に擦り切れたジーンズの後ろポケットから携帯を取り出し、沙也加に電話をするのだが……
『……お掛けになった電話番号は、お客様のご都合により現在使われておりません。もう一度番号をお確かめの上、お掛け直すか……』
という応答メッセージが届くだけ。それを聞いた卓司の手から携帯が床にこぼれ落ちる。
「…(どうなってる、なぜ、電話が通じない?……使われていないという事は解約したか、番号を変えたか なぜ、なぜ、そんな事をする必要がある……まさか、事件に巻き込まれた !? そうだ、きっとそうだ !!)」
「通じないみたいですね」
拾い上げた電話を斎藤は一度耳に当て、それから卓司に手渡す。
「刑事さん、彼女の身に何かが起こったんですよ、きっと !!」
「彼女とは?」
「『野村沙也加』と言います」
「それをすぐ信じろと言われてもねぇ」
「昨日、撮った写真があります」
卓司は待ち受け画面に写っている彼女を指差す。
「この人、この人が私を助けて看護してくれた『野村沙也加』さんです」
斎藤は受け取った携帯を鈴本と一緒に眺める。そこには卓司の左側に寄り添うようにしながら左手で『Vサイン』を出してにこやかに微笑む女性の姿があった。
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