夢見る日々

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 皐月とは、高校の入学式からしばらくたったあたりで知り合った。  知り合ったと言っても、十中八九俺が勝手にそう思っているだけだろう。  皐月と俺――清の二人の出会いは、なんてことはない。俺が昼休みの時間、教室を出ようとしたときの話だ。  何の用事があったかは覚えていないが、俺は何気なく教室を出ようと扉を開けた時、その真正面に彼女はいたのだ。  向こうも今まさに扉を開けようと思っていた所であったのだろうか。視線があった一瞬、ビクッと怯えた様子を見せる。  その時はせいぜい、「ごっ、ごめんな」「ううん、大丈夫だよ」程度のやり取りしかしなかったのだが、俺の中ではすでに一つの恋が始まっていた。  それ以来、彼女の一挙手一投足すべてが素晴らしくこの上ないもののように感じられた。  彼女の声が、俺の世界に新しい彩りを与えてくれた心持がした。  彼女の小動物に良く似た愛くるしい仕草が、俺を優しさで包んでくれるように思える。  彼女の清楚な香りが、俺を幸せの国へと誘ってくれるような感覚がした。  勉強、運動、全ての場において、絵に描いたように完璧だった彼女。  左手で板書を写すだけの何気ないしぐさでも、彼女が他の人間より知性に満ち溢れているということはすぐにわかる。  彼女が駆ける姿は、これっぽっちも暑苦しさがなく、まるで流水のようにしなやかであった。  彼女が笑えば、皆が笑う。無論、俺も顔を赤く染めながら笑う。  弱みや付け入る隙を感じさせない所がなかなかどうして、何とか振り向かせて見せたいと思わずにはいられなくなるのだ。  普段は挨拶程度の言葉しか交わさないが、その一方でうちに秘める思いは日に日に大きくなっていく。  それにつれて俺の思いは今から未来へ、認知から想像へと翔けていく。  夕日に煌く街通りを、一緒に手を繋いで歩けたらどんなに良いだろうか。  海水浴に行くとしたら、きみが選ぶ水着のチョイスはどのようなものだろうか。普段醸し出す大人らしさを一段と際立たせる黒色だろうか。それとも案外、幼い感じの水色や緑でコントラストが際立つようなものを選択するのだろうか。それともまさかのスク水なのだろうか。
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