プロローグ――激震

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才色兼備。 すぐれた才能と美しい容姿の両方をもっている人間に対する賛美の言葉で、主に女性に用いられる言葉だ。 長い歴史の中でこう呼ばれた女性は多数いるが、俺はこの言葉は彼女にこそふさわしいと心底思う。 最上みれい。 俺が通う私立高天原高校の3年生。県内でも有数の進学校でもあるウチの学校で、1年の頃から常に成績トップ。来年は東大だハーバードだと全校生徒や教師たちからも最高の評価を受けている天才。 だが、人気の秘訣はずば抜けた才能だけでなく、むしろ見目麗しい外見に依るところが大きいだろう。 艶やかな、ロングの黒髪に大きめで輝きを放つ大きな目。すらっと伸びた鼻の先には、ぷるんと健康的な桃色の唇。 長い手足はまるで現役のモデルのようで、つま先の先まで彼女の『完璧さ』を構成している。 非の打ちどころがないとはこういうことをいうのだろう。 俺、雑賀清澄もそんな最上先輩のファンの一人だったのだが……そんな俺に昨日事件は起きた。 先輩のことが好きすぎたのか、何をとち狂ったか、先輩に告白してしまったのである。 だが、いち小市民にすぎない俺が先輩に告白してしまったことが事件なのでは決してない。 それこそ俺と同じように先輩に玉砕覚悟で挑む男子達は日々後を絶たない。そして、勇者たちは例に漏れず、文字通りみな玉砕していた。 だが、昨日、事件は起きた。 最上先輩がOKしたからである。 誰でもない、この俺の告白に対して、だ。 「いいよ、付き合おう」 この一言で、学校中に激震が走った。 普段から注目度MAXの最上先輩。 当然この事件は当日中に瞬く間に学校中に広がり、俺と先輩は”学校中だれもが知っているカップル”になった。 (当然のごとく俺は学校中の男子達(のみならず女子や教師からも)からやりでも降ってくるのではないかというくらいのバッシングを受けたが、それはまた別のお話) これも最上先輩の『完璧無比』なところが為す業なのであるが、明日以降、学校でたった一人、先輩の完璧さに疑問を投げかけることになる人物が現れることになる。 そう、俺、雑賀清澄だ。 なぜなら……。 『完璧超人』最上みれいには、”彼氏”という近い立場になって初めてわかる残念な欠点があったからだ。 完璧な彼女には誰も知らない欠点があった。それは……。
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