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ホームに悲鳴が響いた。
私はあわてて駆け寄った。
線路に彼女の首が転がっていた。なんてことを。
彼女の死は事故死として扱われた。
背中を押したのを見たのは私だけ。
でももう一人の私が背中を押したなんて誰に言っても信じてはもらえないだろう。
S先輩は悲しみに暮れた。
見ていられないほどの憔悴だった。
もうどんなにがんばったって、死人にはかなわないのだ。
私は、ひとみが生きていても死んでいても、彼女にはかなわないのだ。
私は自分を鏡に映してみた。
後ろの正面に薄気味悪く笑う私がいる。
それが本当の私なんだ。
「君は凄いね。ちゃんと邪魔者を消せた。」
矢田クロード。
「なんなの、アンタ。」
私の言葉は虚無に満ちている。
もうどうでも良い。この世の中なんて。先輩も。みんなどうでもいい。
私はその夜、浴槽の中で手首を切った。
黒いんだ、血って。
そうだよ。血は黒いんだ。
クロウ。
大きく切れ上がった口の中は赤。
さあ、おいで。僕らの世界に。
私の背中から、漆黒の羽が生えた。
凄いね、飛べるんだ、私。
矢田君は、足がなんで三本あるの?
だって僕は黄泉先案内人だから。
二羽のカラスが、漆黒の闇に溶けて行った。
「母様、これでまた少し、世のバランスが戻りましたよ。」
二重鏡に向かい、矢田が笑う。
鏡は怪しい光を放ち、矢田の闇よりも深い黒の瞳に映った。
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