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「貴女を帰したくない」
キャラメルのように甘い声で囁いて。わたしの頬に手を当て、傾けた顔を寄せてきたその時。
ゴーン。ゴーン。
零時を知らせる鐘が鳴り、慌てて身を翻す……はずだったんだけど。
「ぐぬぬぬぬっ」
彼にがっちり捕まれていて、ジタバタと腕の中で暴れてもちっとも振りほどけない。
「失礼!」
八つ当たりも含めて、渾身の力で蹴りをお見舞いし。
「ゲフッ」
彼の力が緩んだ隙に逃げ出した。
なぁんだなんだ。そっか。彼はわたしに会いに来てた訳じゃ無かったんだ。
その日を境に、わたしは舞踏会の付き添いを止めてしまった。
時々キリキリ痛む胸を抑えながら、淡々と屋敷の管理をしていたら。
「え……王家主催のですか」
数日後、継母から王家主催の社交会に出席するように言われた。
「でも……」
今はハッキリ言って、パーティには出たくない。
「正式に招待を受けた以上、欠席は許されません。幸い仮面舞踏会ですから、当日は名を明かす必要はありませんよ」
仮面を着けて、表面上はどこの誰だかみな気付かないフリをして楽しむのが、仮面舞踏会。
結婚相手を探す者にとっても、一夜の恋の相手を探す者にとっても、都合のよいもので。
いわゆる王家主催の婚活パーティなのだ。
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