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「きっと貴女を迎えに行きます!」
脱げたガラスの靴の片方を手に叫ぶ王子を振り返り、その笑顔を見てぞっと背筋が寒くなる。
トウモロコシの髭のように、金色のふんわりとした巻き髪。秋の空のように澄んだ蒼い瞳。艶やかな甘い声と、しなやかな体躯。
乙女なら誰しも心奪われそうな、外見の王子さま。
『貴女の平手に蹴りに、度肝を抜かれました。これはもう恋ですね』
なんてうっとりとした目付きで言われて、『それは恋じゃありません。変態って言うんです』ってうっかり答えたんだけど。
『辛辣な貴女の言葉に、身震いしてしまいます』
どうやら喜ばせてしまったらしい。そんなド変態王子様なんて……
「まっぴらごめんだぁぁぁっ!って、待ちなさいよこの野郎!まだ鐘は鳴り終わってないでしょうっ」
零時の鐘と共に、さっさと帰ろうとする借り物の馬車を追いかけながら、残った靴を掴んで裸足で全力疾走。
どっかの国では継母に虐げられた女の子が、ガラスの靴で玉の輿に乗ったとか何とか。
“真・デレラ”だったけ。名前忘れちゃった。
そんな逸話があるからウチの能天気箱入り娘のママが、あやかってこんな柔軟性も何も無いガラスの靴なんて代物作っちゃうのよね。
溜息をついて、ここ数カ月の怒涛の日々を思い返した。
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