1人が本棚に入れています
本棚に追加
結衣の話に区切りがつきそうになったとき迅は意を決した。
遂にこの想いを伝えると。
でも、その想いは、その言葉は、結衣に伝わることはけしてなかった。
結衣の最後の一言によって。
「…………私、結婚することになったんだ。」
…………………………ん?
……結……婚……………?
……………………………。
少しだけ静かな時が流れた。
「そっか。」
なんとか絞り出した音がこの言葉だった。
あまりに突然のことで驚きと同時に変に落ち着いている自分がいた。
「結婚するんだね。」
「うん。
迅には最初に伝えたかったんだから。
もっと喜んでくれてもいいんだよ?」
俺の気持ちを知らない結衣はあの頃と変わらない無邪気な顔で笑いかける。
「ごめん、ごめん、突然のことだったからさ。
驚いちゃって。」
「サプライズ成功かな?」
とまた笑いかけてくる。
彼女の無邪気な顔をみればみるほど俺の心は痛んだ。
顔に出ないようにと無理やり笑顔をつくって。
用意していた言葉は隠し、思ってもいない言葉を口にした。
「うん、結婚おめでとう。」
「ありがとう。
まだ結婚式は先だけどね。
その時は出てくれるよね?」
「もちろん。」
「いぇい!」
とニコニコしながら小さくVピースをしていた。
このまま抱きしめてしまいたいと思うくらい可愛いかったのにこの時の俺は変に冷静で。
いや、冷静でいないと自分が自分でなくなると分かっていたから。
ただただ、結婚するという事実だけで頭がいっぱいだった。
この現実から、この場所から早く離れたかった。
「そういえば親からおつかい頼まれてたんだった。
ごめん、そろそろ帰るね。」
「えっ、もう遅いし泊まっていけばいいのに。」
「俺も男だよ。
普通は男を家に泊めないだろ。
他の男も家に泊めるなよ?」
と少し強めに問いかける。
「そうだよね。」
あははと笑いながらも反省気味に返事をする。
「でも、迅以外の男の人を絶対に泊めないよ。」
結衣の言葉にいちいち勘違いしそうになる。
俺はきっとまだどこかで期待してたんだ。
「今日はありがとう。」
「うん、迅にも早くいい人が見つかるといいね。」
最初のコメントを投稿しよう!