モトとラギ

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「はあ、はあ、はあ、」 木々の合間を走り抜ける影、深く日射しが疎らにしか届かぬ深淵。 「はあ、はあ、はあ、」 湿った無数の枯れ葉を踏み締め、次の1歩を勢い良く繰り出す太く大きな脚。ぬかるんだ土を蹴り上げ、両肩が入れ替わり勢い良く風を切る。 両腕には赤子、それを大事に抱えるモトの姿であった。 「はあ、はあ、何としても、俺がお前を守り抜いてやっがらな、安心しでそのまま寝でろよ!泣ぐな、泣がないでくれよっ!」 何処からか、馬の鳴き声が辺りに響き渡る「ヒヒィンッ!!」その瞬間、モトの右足が力強く大地を踏み込んだ。 するとモトは、近くの草木が茂る中へと、太く大きな腕で赤子を覆いながら飛び込んだ。 「はあ、はあ、」 爬虫類の革で出来た鎧に身を纏う二人の馬に跨がる男の姿が、先程モトが飛び込んだ草木の近くを物凄い勢いで通り過ぎて行った。 草木の中から鋭い眼光でそれを確認すると、モトは立ち上がり、別の方向へと走り出した。 同じ森、違う場所、ラギは布にくるんだ赤子ぐらいの何かを抱きしめしゃがみこんでいた。馬に跨がる男達がラギを中心に囲んでいる。 「ああ、どうか、見逃して下さいませぬか」 弱々しい声は、男達には届かない。1人の男が馬から降り、ラギに近付いた。 「どうか、どうか、御慈悲を」 ラギの前に表れた男が少し首を傾げる。脇に差した剣を取り出し、ラギの肩にあてた。 「貴様の様な蛮族共を生かす義理は持ち合わせておらん」 その瞬間、天が光り、雲の合間から少女の様なおぼろ気な姿がラギの視界に入った。 「あ、ああ、ムスビの女神様、、」 「……」 無言で男は剣を振り上げ、ラギの肩を目掛け降り下ろした。 意識の薄れる中、ラギは不思議と痛みを感じていなかった。意識もハッキリとしていた。涙て滲む景色の中、天に映る少女は哀しげな表情を浮かべながらフッと消えた。 ドサッ、ラギが仰向けに倒れ息絶えた。男は、ラギの抱き抱えていた布を引き剥がす。 「な、石?」 ラギが大事そうに抱えていたのは、赤子程の大きさの石であった。
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