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馬に跨がる男は、不気味な音を立てながら、トゲ鉄球を頭上で振り回す。剣を持つ男も間合いを保ちながら、ゆっくりとモトの視界から離れる隙を伺っている。
「ふう、はあ、ふう」
モトの息は切れ切れだった。しかし、変わらぬ形相で立ち尽くしている。
次の瞬間、鉄球がモトの正面目掛けて飛んで来た。剣の男は、モトの視界から消えた。
ドゴッ!鈍く、骨を砕く音。モトは避ける事もせず、顔面でトゲ鉄球を受け止めていた。
モトの右腕は伸びきり、その腕には、力強い凄まじい血管が浮き出ている。剣を持つ男の顔を陥没させる程めり込んだモトの拳。モトの拳にぶら下がるかの様に、男の足は宙に浮いていた。
ゴトッと、モトの顔面にめり込んだトゲ鉄球が地に転げ落ちると、馬に跨がる男の表情が驚愕に変わった。
鼻は在らぬ方向へと曲がり、右目は潰れていた。しかし、モトの表情は変わらない。
突然馬が暴れ出し、跨がっていた男は振り落とされた。ズル、 ズル、と、ゆっくりモトは自信の体を引きずりながらその男の前へと足を運ばせる。
男は恐怖で立ち上がれない。膝が笑い、腰が抜けた様子。奥歯はガチガチと音を出し、目玉は飛び出しそうな程、見開いていた。
無様に腰に差してある剣を抜き、モトへと向ける。
「く、来るな!化け物めっ!ひっ!」
「……ゴブッ」
男の持つ剣は、モトの喉を貫通した。モトは、避ける事も受ける事もせずにゆっくりと男の首を太く大きな左手で掴み、グシャッ!と、一瞬で握り潰した。
男の頭は、握り締めたモトの拳の裏へと転げ落ちた
。
「う、ががが」
モトは、ゆっくりと膝を付き、天を仰いだ。そこには、哀しげな表情を浮かべた少女の姿が表れていた。
光りに包まれ、雲の合間から、美しく神々しい姿。モトは鬼の形相のまま、その少女の首元へと両手を伸ばした。
ズシッと、モトの膝が地に落ち、そのまま倒れ込んだ。
ドスン、と地響きの様な音が辺りに響くと、モトの息も絶えていた。
暫くし、木陰から銀色になびく長い髪の女性が姿を現せた。透き通る様な肌、青い瞳。
不意に赤子の泣き叫ぶ声が辺りに響き渡る。
銀色の女性は、草むらにそっと置かれていた赤子を抱き上げた。
「……」
青い瞳は、冷たく凍えそうな程。感情が一切表れない様な表情であった。
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