優しすぎる彼

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優しすぎる彼

「以前より、言葉遣いもとても丁寧でいいと思いました。でも、少し語気が強いので、意識して柔らかく伝えるように心がけて下さい」 「はい、有難うございました」 研修室の一角で本日オペレーターへのフィードバック十五人め。 ホワイトボードに長テーブルとパイプ椅子しかないこの部屋が、私が一番長く仕事をする場所。 今日も本人の通話を録音したテープをオペレーターさんと聞き、採点シートを見せながら課題点のアドバイスをする。 モニタリング担当になってから三年以上が経過した。 このコールセンターは応対に関してとても熱心で、モニタリングも月に二回あい、細かくランク分けもされ日々『素敵な応対』を出来るように皆努力をしている。 「柚希、そろそろお昼イケそう?」 「うん、今ので午前の部は終わったから千夏も食堂行く?」 パソコンや必要な物を纏めると、SV室という管理者専用の部屋に戻った。 スーパーバイザー(SV)、グループリーダー(GL)、システム担当(SE)、モニタリング担当、部署責任者はオペレーターとは別のこの部屋にそれぞれのデスクを持っている。 SVをしている千夏は同期で、GLさんのサポートや現場の管理、人数が少ない時は自らオペレーターもするマルチな役割。 私もSVを経て今のモニタリング担当に任命された。 「今日は日替わりランチ?」 「ううん、パンでも食べようと思って」 お昼時の食堂は、とても混んでいるのでエレベーターすら中々来ない。 このビルは様々な企業も入っているので、仕事の話は部屋を出た時点で全く出来ない。 コールセンターは、二十階建てのビルの六~十階部分にある。 色んなクライアント案件を扱っていて、今私が担当しているのはコスメ会社だが、階が違えば全く別の分野になり、オペさんの顔も名前も分からないくらいだ。 「二時だし、もう空いてるよね?」 「そう願いたい……」 食堂は最上階なので階段使って上がるのはハードだし、来たら絶対に乗りたい。 広めな造りのエレベーターが二つ並んでいても、ギュウギュウで息ができない事も度々あった。 ドアが開くと、ビルに入っている他の企業の若い男性社員が沢山乗っていたが、隙間を縫うように私と千夏は何とか乗る事に成功した。
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