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白いレースの布が、風も無い空中に舞い上がる。
遊びまわるように飛んでから、布はユカの手に落ち着いた。
ユカの顔は、既に冷静さを取り戻していた。
さっきまでの狂気に満ちた顔はどこかに消え、赤い涙を流した物悲し気な表情に変わっている。
もう襲ってくる気配は無いようで、2人は小さく息を吐く。
「布に触ったかどうか聞いたのは?」
「触った人間を、あちらの世界に引きずり込むらしい。まぁ単なる噂だ、僕は信じてない」
聞かなきゃ良かったと、今更後悔する。
ふと奥の方に目を向けた。
同じレースの布に包まれた何かが、無造作に置かれている。
それに臆さず、ソウカはそのモノに手を伸ばした。
だがこびり付いた赤いモノが、剥がされる事を拒む。
ほんのり漂う腐った臭いが、鼻腔を擽る。
これは、死体だ。
忘れられた、朝霧ユカという存在の。
「やっと、見つけた」
この時見せたソウカの顔が、コウタが初めて見る本当の笑顔だった。
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