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あの事件から数日、初夏の季節になった。
梅雨の時期に入り、じめじめした空気に気持ちがどんよりする。
コウタもまた、梅雨の時期が嫌いだった。
ただ雨が嫌い、という訳では無い。
「今日も雨だな、コウタ」
コウタの前の席から飛んできた声に、思わず目を向ける。
前の席には、少し長めの黒髪を後ろで結った少年が座っていた。
背もたれの部分に腕を乗せ、少し気怠そうにコウタへと顔を向ける。
「何だ、アキヒコか」
「何だとは何だ!?俺達親友だろ!?」
「そうだな、部活では良いパートナーだ」
席の隣にかけられた鞄を見る。
開いた鞄の隙間から見えるラケットが、さらに気持ちを沈めた。
コウタは、テニス部に所属している。
運動はそこまで得意じゃなかったのだが、目の前にいる親友の柊アキヒコが誘ったのをキッカケにテニスを始めた。
今では趣味程度だが、楽しんで部活に打ち込んでいる。
しかし連日の雨が、部活の時間を潰したのだ。
だから、梅雨の時期が一番嫌いだった。
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