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「雨といったら、こんな話前に聞いたんだけど……」
背もたれに乗せた腕に顎を置き、アキヒコはにこやかに話を始める。
それは、学校内で一部に広まる噂話だった。
「うちのクラスに、広居ミスズっているだろ?」
指さす先は、コウタと同じ一番後ろの席の丁度反対側。
窓側のコウタとは反対の、入り口側に座る少女。
長い黒髪に、赤いリボンが特徴的な彼女が広居ミスズだった。
クラスのマドンナ的存在として、みんなに好かれていた。
だがある雨の日を境に、彼女は一切喋らなくなる。
喋りたくても、喋られない。
ミスズが綴ったノートには、そう書かれていた。
「広居がどうかしたか?」
「広居さんって、声を奪われたんじゃないかって噂があるんだよ」
「声を?誰にどうやって?」
「雨の日の河川敷で彼女を見たって人から聞いたんだけど、フラフラとした足取りで誰かと歩いていたらしいんだ。それ以上は、俺も知らない」
ピクリと、耳が反応する。
声を奪われた少女。
奪った犯人だと思わしき誰か。
あまりにも非現実的だからこそ、今教室にいないソウカの顔が嫌でも浮かんだ。
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