第二話 奪われた声

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放課後の図書室。 普段なら立ち寄る事の無い場所に、コウタはいた。 純粋に本を読むためではなく、本を読みに来た少女に会うためだった。 「君から会いに来るとは、珍しいなコウタ」 「うるせー、別にクラスメイトなんだからいいだろ」 足を組んで本を読むソウカが、そこに居た。 相変わらず前髪で片目を隠しているが、慣れとは怖いもので奇妙だとは思わなくなる。 パタリと閉じられた本は、人魚姫と題された童話だった。 思わず表紙に目をやると、ソウカは小さく微笑む。 「人間になる代わりに、声を失う。挙句の果てに王子を殺せず、泡となって消える」 「な、何だよそれが」 「コウタは、ミスズの事で僕の所にきた訳じゃないのか?」 うわずって吐きだされそうになった言葉を呑みこみ、その代わり大きく目を見開いた。 何でもお見通しと見つめるソウカの目が、怪しく光る。 またも根負けしたコウタは、両手をあげて降参のポーズを取った。 ふふんと鼻を鳴らす姿に、カチンと頭にくる。 「ミスズの事が好きなのか?」 「はぁ!?」 本のページをまためくりながら、コウタに問いかけた。 思わぬ質問に、いつもより大げさに首を大きく横に振る。 あからさまに否定する様子を、楽しむかの様にソウカは笑った。
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