第二話 奪われた声

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ミスズに気がある訳では無い。 みんなからマドンナと言われ、男子の目を奪ってきた彼女。 コウタは時々今のミスズの姿を見て、心を痛めているだけだった。 今まで明るかった少女が、水底に沈みきっているかのような暗い影を落としている。 楽しく会話ができない、出来ていた事がもうできない。 それがどれだけツラいか、コウタは理解できる。 「妹は、事故で目に光を失った」 コウタの言葉に、ソウカは本をめくる手を止めた。 馬鹿にしていた顔も、いつしか真剣な表情へと変わっている。 「今まで当たり前だったことが出来なくなるって、ツラいと思う。妹はもう光を取り戻すのは無理かもしれないけど、でも広居なら……」 「声を取り戻せるかもしれない……そう言いたいのか?」 さっきとは違い、今度は小さく縦に頷く。 特に確信を持ってる訳じゃない。 しかし、これだけはわかる。 「お前の力を信じてる訳じゃない。でもソウカ、お前がいればもしかしたら助けられるかもしれない」 「ほぅ……ようやく助手らしくなってきたじゃないか」 「……もう面倒くせ。いいから力貸せよ」 呆れた顔で差し出された右手。 数日前の事件の終わりを、逆だが再現するかのよう。 それを知ってか知らずか差し出された右手を、ソウカは無視するわけにもいかなかった。 「人魚が泡となって消え果てる前に救い出すとするか、コウタ」 口端をつり上げた彼女は、小さな吐息を漏らした。
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