【ヤヴァルト銀河皇国】

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 しかしヤヴァルト皇国が版図を最大とし、最も栄華を誇ったこの時がすでに、衰退の始まりであった。  『モルンゴール帝国』との戦いで皇国中央では『星師皇』の実権と権威が高まり、『星師皇』のNNL統制を補佐する事が役目であった、『皇国賢人会議』のメンバーは、『星師皇』から様々な特権を与えられ、貴族として振る舞うようになった。  それに伴い、それまでの民主主義の弱点である、政策情報処理及び、政策施行速度の遅滞を、解消する事が目的であったはずの『新封建主義』は、権力の集中に魅了された“貴族”の恣意的政権運営によって退行し、1400年代初期には早くも、かつての中世的な旧封建主義の様相を呈し始める。  また『モルンゴール帝国』との戦争の影響はそれだけに留まらず、帝国の併呑によって、帝国の武断的思想が流入し、軍部の発言力が大きくなった事は、皇国の封建制度を変質させる重要なファクターであった。旧的封建主義の深化によって、支配力を強めた各宙域の総督が、皇国中央へ不満を抱くにつれ、その宙域の皇国方面軍と手を組んで、独立傾向を強めて来たのである。  宙域総督は皇国中央から四年ごとの交代制を基本に派遣されて来た人物であるが、実際にはその任期は平均十三年と長い。これは皇国が民主主義的側面を意識的に残し、任地先の住民に信任投票を行わせたためだった。  住民からの信任は基本交代任期に優先され、中央が任命した総督の施政評価責任を、宙域住民にも分担させるのが、皇国中央の目的であったが、その反面、住民から厚く支持された総督ほど長く任地に留まる事になり、土着化して宙域中心の政治を行うようになっていたのである。  その結果出現したのが、各宙域ごとのブロック経済圏だった。  超空間転移ゲートと通信サーバーは、皇国の国体維持の要であって、星師皇及び皇国賢人会議の絶対的管理下にある。これを使用すれば皇国へ莫大な使用料を支払う事になり、使用しなければ宙域間の移動に長い時間、さらにそれが可能な性能を持つ宇宙船の建造に相当額の費用がかかり、通常通信も事実上不可能となってしまう。  そこで各宙域総督がとった施策が、自らの宙域内でのみ、またはごく近隣の宙域間でのみ交易を活性化させ、これを保護する、自律経済圏の発展である。 
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