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その瞬間、私は自分が感じた違和に気づいた。
違いは二つ。色とそれの広がり方。
まず、目に映る紅葉の色合いが夢で見たものと違う。
ここの並木は深紅に近い色だけれど、私の夢の中の並木は、もっと明るい…朱のような橙のような色だった。
広がり方は至って簡単。
ここの紅葉は葉っぱが生えた木の上部だけだけど、夢の中では、並木全体が明るい赤色に色づいていた。
この差は何なのだろう。
単に、夢と現実が違ってるという、それだけのこと? それとも昔見た街路樹は、もっと明るい色でもっと幹の方まで色づいていたの?
答えを出せないまま街路樹を見つめる。その視界に一台の車が紛れ込んだ。
ふらふらとした動きの車が道を進んで行く。途中、信号があるにもかかわらず、赤信号の交差点に突っ込んでいく。
そこへ一台のトラックが横の車線から走ってきた。
二台の車がぶつかる。トラックはもちろん、ふらふらしていた車のスピードもそこそこ出ていて、ぶつかると同時に二台はそれぞれ別方向に吹っ飛んだ。
信号の向こう側へふらついていた車が吹っ飛んで行く。トラックはこちら側に突っ込んできて、一本の街路樹の前で横転した。…その車体から勢いよく炎が上がった。
トラックがこちらへ突っ込んでくる時に見えた『危』という一文字。
何を積んでいたのかは判らないけれど、人間にとって危険なものが溢れだし、たちまちトラックを火だるまにする。
その際に膨れ上がった炎が一番近くの街路樹に火をつけた。
辺りに危険な何かが散布されたせいか、本来は燃えにくい筈の生木が火に包まれる。隣へ、隣へ、引火は続き、大通りの並木を炎に染める。
その色彩は、夢の中で見た明るい赤色そのものだった。
ああ…これだったの? 私が見続けていた夢は、覚えていない記憶ではなく、今日という日の予知夢だったの?
なんとなくそう思ったけれど真相は判らない。判らないまま、炎に染まった近くの街路樹が倒れてくるのを、その場に立ち尽くす私はただぼんやりと見つめていた。
紅葉の道…完
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