旅路を照らす

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「エンチャンターなら、トレゾアにいけばもっといい暮らしができるだろう?」 「ダブルでもかい?」 口をついてでた言葉に、気まずそうな顔をしたのはスコールの方だ。 「はい。終わり。その話も。ここに泊まることも。だいたい、こんな小娘を手篭めにしたところで、騎士の名誉が泣くだけだしね」 「泊まる世話をかけるだけでも、十分情けない気分だが」 初めて心から笑ったようなその顔に、私は驚いて目を丸めた。 「冗談、言うんだ」 冷たそうな表情が、ふわりと緩んで紫紺の瞳がゆれる。笑い慣れないその唇の片端が上がると、私は意外とかわいいその顔に、笑ってしまった。 スコールにコップを預けると、わずらわしい袖口を軽く引っ張って皮袋から濁酒を注いだ。 すると、傾けた私の右の手首を見て眉を顰める。 「アーシェ、その手首の痣は」 「ん?あぁ、これか。彫ったのさ」 彫ってなんかいない。 この手首から腕にかけて浮かび上がる機械的な模様の痣は、物心ついた時からあった。 それは幼い頃、父の書斎で見つけたアンサーズの印と酷似していて。 私はそれがとても、気に入ってる。
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