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「トレゾアの騎士は、王妃から剣を授かる。間近でみたのは、久しぶりだな」
「トレゾア出身か」
「…どうだかねー」
言いながら、窓を閉めようとする私の手をスコールの声が止めた。
「あの光は?」
丁度窓をしたから覗き込むようにすれば、北の山間に昇る光の群れが見える。
「さっきもみたのに。夢追い虫だよ?」
突然会話に入ったサラが、無邪気に目を輝かせて首を傾げた。
「いや。…あんな群れは初めてだ」
「あれも、東から西に渡ってきてるのかもね」
いい含んだ意味を知ってか知らずか、まるで取り憑かれたように空を見上げるスコールの横から、私は窓を閉めた。
「どこに帰って、何をしに戻ってくるのやら」
埃っぽい本の山をはたいてから腰掛けると、はぐれて出てきた夢追い虫がサラの鼻先に止まった。
サラが人差し指を差し出すと、夢追い虫が留まる。
虫とは名ばかりの、無意識の光体。
寄り目になったサラを見て私が笑うと、スコールが「まるで姉妹だな」と笑った。
「ほんと、手が焼ける姉だよ」
そっと息を吹きかけて、サラがその光虫を飛ばすと、ゆっくりとその輝きを細めて消える。
「サラが姉……てっきり逆だと」
私の眉間の皺に、サラがクスクスと声を立てている。
「いや。とくに他意は…」
「え?ちょっと!!サラはあたしの5つは上だけど!!」
「…悪かった。しかし、…泊まるつもりだったが、さすがに女性だけの家に転がるのは気がひけてきたな」
「あはは!いまさら遅いって」
おそらく白かったはずの琥珀色のカップに入れた白濁のどぶろくを飲みながら、私はにやりと微笑み返す。
「っていうか、サラの家は酒場だし。私はここでサラの身請け代を稼いでるだけ。家なんて呼べる大層なもんでもないし。縁あって物置に一緒にいると思ったらいいじゃないか」
いつのまにか寝てしまったサラに、スコールが毛布をかけた。
小波のように寄せてかえる寝息は、この小屋の静けさを際立たせる。
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