旅路を照らす

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-----〝LiverTeen(リバティーン)〟 神の召しますこの一つなぎの大陸は、そう名付けられている。 人も、天使も。 悪魔も同じ。 酒場のキャンドルの炎が、小さく息を顰めた。 「サラ……」 客の注目を一身に集めて、喧騒とざわめきの中に、彼女がステージに舞い降りる。 ふわり。 両翼の天使の翼と。 その間にある3枚目の悪魔の羽で。 サラは私に気がつくと、一瞬微笑んで、その愛らしい唇を小さく開いた。 『Happy Birth Day』 私はサラに片手を上げて答えた。 シャラシャラと金銀の腕輪を鳴らして、ステージ脇のエルフがハープを弾く。 細く立ち上がった炎に灯されて、肌を赤く染めながら、サラは亭主自慢のアメジストを見上げる。 ふっと火が膨れると、薄色の光が中央の円卓に降り注いだ。 〝Evil・Sanctuary〟…この酒場の、サラは一番売れっ子の歌姫だ。 タウルスの角に、エルフの耳。 ダブルだからこそ美しいその顔が目を伏せて、何色にも染まる銀色の髪がフワリと揺れる度、酒場の喧騒は時間を止めたように鳴り止んで、透き通るその声に耳を傾けた。 「古い歌だな」 静まった酒場の空気も読まずに、コートを纏った男がブーツを鳴らしてカウンターに座った。 「あんた見ない顔だね。サラが歌うときは、バズテイルだって羽を休めてあの声を聞いてるよ」 「そうか。それはすまない。この町は初めてで」 「TresOir(トレゾア)からきたなら、言いふらさないほうがいい。ここの連中はダブルが多いから」 被っていたフードの隙間から覗く男の鋭い視線に、アーシェは軽く肩をすくめた。 「ありがとう。肝に銘じておくよ。邪魔して悪かったね」 そう言って、彼はマスターに注文をつけると、くたびれた布袋から金貨を出してテーブルに置いた。
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