ミスターパーフェクト

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陽が沈み始め、辺りの景色は夕焼け色に染まっていた。白を基調とした校舎も真っ赤に染まり、1つの巨大な壁画の様な印象を見る者に与えた。 放課後の校舎裏、ラベンダーセージが敷き詰められた花壇の手入れをする華の姿があった。 校舎の影、何かを覗く萌。紫色に囲まれた華は口を尖らせている。 「萌、サボッてないで手伝ってよ!」 勢い良く振り返る萌、「しっ」と言うジェスチャー。その表情は真剣その物。直ぐ様に萌は、華に此方へ来いと勢い良く手招きを何度も繰り返す。 「なに、なんなのー」 仕方なさそうに華は、萌の方へと足を運ばせる。 「華っ、ほら!見て!」 萌に促されるまま、華は、校舎の影を覗き込んだ。その眼の先には、ミスターパーフェクトと1人の女子学生。 声は聴こえ無い。しかし、互いに真剣な表情で何か深刻な会話をしている様子。 「流石、鴻巣君だね。告白でもされてるんじゃないかねー」 周囲に漏れぬ様に、小さな声で萌は放った。 「んん、やっぱりそうなのかな」 華の表情は、暗く淀んだ。萌はそれを察してか、覗くのをピタッと辞めた。 「ま、あの子、振られちゃうと思うけどね」 そう、いい放つと萌は紫色の花壇へと足を運ばせた。 「ほら、華!いつまでも覗いてないで、ラベンダーのお手入れしよ!」 「う、うん」 萌の方を向き、校舎の影から顔を戻した瞬間だった。ふと、生暖かい風が華の頬を撫でた。生臭い鉄の香りが鼻を抜ける。一瞬の胸騒ぎ、華は直ぐ様に校舎の影を再び覗き込んだ。 その眼光の先、ミスターパーフェクトこと鴻巣の前には、先程の女子学生が倒れ込む姿。首元からの出血、青白くなった女子学生の肌は、青白くハッキリとした血管が無数に浮き上がっていた。 倒れ込む女子学生を抱える鴻巣、口許から滴る赤色。華の思考は完全に停止、そのまま腰が抜け、尻を地に着けた。 ドサ。 「華っー?!ちょっと何やってんのー!?」 ふと鴻巣が顔を上げる。華と完全に眼が合った。 「ひっ、」 恐怖で歪む華の表情、鴻巣の眉間にはシワが寄る。 「華ってばー」 「あ、も、萌!」 華が顔を萌に向けた瞬間、突風が華を襲った。眼を左手で覆い、再び鴻巣のいた方へと視線を向けた。しかし、鴻巣の姿と女子学生の姿は消えていた。
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