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「華、華ってば!」
萌は、華の肩を力強く揺さぶっている。呆然自失の華は、ただ萌に揺さぶられるがまま。
「ねえ、ちょっと華!どーしたの?」
だんだんと華の焦点が目の前の萌を捉え始めた。幾重にも見えていた萌の姿が1つに落ち着いたころ、華の意識も正常に戻り始めた。
「も、え?」
「華!良かった!」
「あれ、私・・・」
「華、どーしたの?具合でも悪いの?貧血か?」
ふと、頭の中に雷光が走る。先程の光景が華の記憶にくっきりと蘇った瞬間だった。
「も、萌っ!」
虚を付かれた表情の萌。不意に華は、立ち上がり再び校舎の影を覗き込む。
「ちょ、華ってば!」
華の視界の先には誰もいない。鴻巣も、首元から出血していた女子学生の姿も。ただ、松の木が1本そびえているだけ。
「華っー?」
「萌、私、見たの。」
ゆっくりと、華は萌の方へと体を向けた。萌は混乱した表情。
「鴻巣君が、さっきの女子学生の首元に噛み付いて血を・・・」
萌の目は真ん丸くなり、キョトンとした表情。次に大きな含み笑いが萌を襲った。
「ぷっ、あははっ!華、さっきの女子が鴻巣君とイチャイチャしちゃったからって、吸血鬼かよ!」
「え、ええ!萌、違う、そーじゃなくて」
しきりに腹を押さえつけ笑いを堪える萌。華の額に手を当てた。
「はあ、熱は無いわね。首にキスマークでもつけてたんでしょ?どーせさっ、ま、鴻巣君には彼女かいたって事だね」
「ちょ、止めてよ」
華は萌の手を振り払った。眉間に寄せるシワ、下唇が勢い良く飛び出す。
「本当、本当なの!萌、信じて!」
萌の両肩が少し上下した。
「はいはい、ショック過ぎて見間違えと妄想が入り交じったってところかね?
「ちょっと、本当なんだって!」
華の物凄い見幕に、萌は少したじろいだ。しかし、華が真剣に発言すればするほど腹から抑えられない感情が込み上げて来る。
華の眼には、涙が浮かんでいた。
「ぷっ、くふっ、ごめん!華、でも、可笑しくって」
「・・・仕方無いよ、私も逆の立場だったら笑っちゃうと思うし。でもね、萌、私嘘言ってない!」
「ギ、ギブ!華ちゃーん」
萌は奇声を上げ過呼吸気味に笑いを堪えている。
華は、萌が落ち着きを取り戻す迄を暫く見つめていた。
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