0人が本棚に入れています
本棚に追加
サークルの仲間どうで、
飲み会に出かけた時だった。
久々に会った気の置けない仲間同士で、
酒も肴も、十分にあって。
限界を見極めながら、
節度を守って飲んでいた。
だが、酒を飲む機会が減ったせいか、
許容量が少なくなってしまっていたらしい。
友人には大丈夫と言って別れたが、
帰る途中から大丈夫じゃなくなった。
暖かい体と、酩酊からくる心地良さは、
競り上がってくる鈍りと一緒に、
全部、電柱に向かって出て行った。
あとに残ったのは寒さと頭痛。
体を丸めて、寒さと頭痛とを、必死に耐えた。
しきい値がだんだん下がっていく。
寒さと痛み以外の、
消えていく感覚を決してはなさないように、
強く強く丸くなった。
「大丈夫?」
不意に声をかけられ、見上げた。
摩滅した電灯の下、彼女がそう尋ねてきた。
大丈夫、と言って、その場を離れた。
彼女から離れた。
どのくらい移動できたかはわからなかったが、
再び限界が来て、
近くにあった街路樹に寄りかかった。
そこで落ち着くまで、街路樹に寄りかかる。
寄り添った木の幹は温かく、
押し付けるように体重を渡した。
葉がさらさらいう音がした。
風もないのに、と見上げると、
彼女が葉を揺らし、落としていた。
ひらひらと、葉が舞い落ちる。
「大丈夫?」
声を上げて尻餅をついた。
腰が砕けた。
「大丈夫?」
信号で止まった車の窓から、彼女が声をかけた。
うまく力が入らない。
踏ん張っても、変な方向に力が抜けていった。
「大丈夫?」
歩道のタイルの模様をなぞりながら、彼女は言った。
生まれたての小鹿のように、
足を震えさせながらが立ったが、
直ぐにまた尻餅を付いた。
「大丈夫?」
左手の腕時計の針をカチカチ進めながら、
彼女は言った。
ポケットで携帯電話が震えた。
彼女は携帯電話を開いて、
僕の耳元につけた。
そこから聞こえた声は。
「大丈夫か?」
友人の声だった。
え?と、声がでた。
辺りを見回すと、
もう彼女は、どこにもいなかった。
「随分酔っていたみたいだけど、大丈夫か?」
ああ。
その声に、急に安心させられて。
「ごめん。ちょっと助けて」
僕は、ずっと久しぶりに、
友人に頼って、甘えた。
最初のコメントを投稿しよう!