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彼の名は、立花雅也。
いわゆる大学の同期で、同じデザイン科で学んだ仲だ。
初めて知り合った十代の頃から、
この男は、どこか大人びた穏やかさと
器を感じさせる飄々とした雰囲気を醸し出していた。
だがその反面で、繊細なデザインセンスと直感に近いほどの鋭い洞察力で
作品を見抜く力は、当時の学生の中で群を抜いていた。
それにも関わらず、彼は、就職活動が始まる二年の終わりを前に、
あっさりとサラリーマンへの道を選んだ。
「俺は、デザインを創り出すほうには向かない」
二十歳を過ぎたばかりにしては、落ち着きすぎるほどのいつもの口調で
そう言った。
しかし、さすがの洞察力は、己の力量も見抜いていたのだろう。
現に、会社では自然と一目置かれる存在になり、
その後、今の会社に引き抜きまでされている。
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