残念すぎる人

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私を拐った誘拐犯だから。 昨日の午後7時。 帰宅途中で彼に呼び止められた。 『すみません。道をお訊ねしたいんですが、よろしいでしょうか?』 『はい、なんでしょう』 『警察署に行きたいんですが、この道で合ってますか?』 『合ってますけど、その先はちょっとややこしいですよ』 『だったら、もしお手間でなければ案内してもらえないでしょうか』 そう言って彼は、車の助手席のドアを開け乗るようすすめてきた。 知らない人の車に乗ってはいけない。 子どもでも判断できることなのに。 私は彼の容姿と柔らかな言葉遣いに 魅了され、 またちょうど帰る方角でもあったし… それに行き先が警察だからと、 『良いですよ』 乗ってしまった。 素敵な出会いになるかも…と。 でもって、この始末。 昨夜のうちに誘拐の事実を私の両親に 知らせ、 『お父さん、助けて!…と、すみませんが言ってもらえませんか』 と、またまた丁寧に頼まれ仕方なく 従った。 身代金と受け渡し場所は、明日の午後にまた電話をさせて頂きますと、一旦電話を切り… 今日に至っているわけで… 『体…痛くないですか?手は大丈夫ですか?きつければ縄を緩めますから』 とにかく気配りのできる人だった。 もう十分に縄は緩めなんだけども。 『じゃあ、これからご自宅にお電話させて頂きます。 進展によっては、また一言頂くかも知れませんが、よろしいでしょうか?』 ほんっ・とうーにっ! この人が誘拐犯なのが残念でならない。 これだけ素敵な人には滅多に出会えないし… 事と次第によっては、身代金を貰ったらそのまま一緒に逃避行しても良いのかも… やっぱり私はふしだらな女なんだ…
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