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『もしもし、昨夜お電話を差し上げた者ですが…』
とうとう彼が誘拐の本懐を遂げようと、2度目の電話をかけ始めた。
が……
『もしもし、聞こえてますか?お嬢さんを誘拐した者です………
いえ、妖怪ではありません。誘拐犯ですよ………いえいえ、ユーカリの木ではありません。あの、』
彼は1度受話器を外し、私に確認した。
『全く話が通じないんですけど…』
『多分、祖母だと思います。両親は共働きでこの時間は家にいません。弟も大学に行ってると思います』
『う、嘘でしょ…娘さんが誘拐されてるのに、仕事に行きますか』
『行くと思います。二人とも真面目な公務員ですから』
彼は私の家庭環境に絶句するも、なんとか気を取り直し電話を続けた。
『では今晩、もう一度かけ直しますので…………いえ、掛け蕎麦の話をしてるんじゃないんです』
祖母は耳が遠い。彼にその事を告げると、
『どのくらいの声なら正確に聞こえるんでしょうか?』
『多分、120dBくらいは必要だと思います』
『ジェット機の音に匹敵するじゃないですか!』
あきらかに困惑しているのが伝わってきた。性格なのだろう。そのまま切れば良いものを、とりあえずもう一度かけ直すことだけを伝えようと、取り組み始めた。
『よろしいですか!』
やっぱり性格なんだ。100dB以上の声を張り上げてる。
『今晩、身代金のことで………いえ、猪苗代湖じゃありません。み・の・し・ろ・金のことですよ!……いや私は、
みのもんたではありません。誘拐犯です……だから妖怪ハンターじゃありません!』
かなり苦戦してる。
可哀想だけど、私は捕らわれ身だからどうしてあげることもできない。
『だから、お孫さんが遺体になって戻ってきたら、おばあちゃん、悲しいでしょう!………医大に入院してるんじゃないですよ。遺体!!ちなみに痛い。じゃないですよ!』
家族でも祖母の相手はひとしきり疲れる。
それが赤の他人様なら尚更でしょう。
でもこのまま長引いたら…もしかして
彼もそのことに気がついたみたいで、
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