7人が本棚に入れています
本棚に追加
"感情"の方は、冬の日の湖面のように動かなかったが。
「――――」
踏みつけたまま、オレはじっ、と足下の女生徒の様子を窺っていた。
女生徒も、同じようにこちらをじっ、と見つめていた――いや、違う。
そこには既に、瞳はなかった。
元々眼球があったその場所には、代わりに暗い眼窩が、こちらを覗いていた。
「なんで?」
「恐怖がない」
疑問に答えは、滑り落ちるように零れてきた。
「警戒心がない。気負いがない。元来人間が初対面の人間に対して抱いてあるべきものが、すべて、欠けている」
だから、とは続けなかった。
ここまで話せば、理解できない理屈はない。
だからただ、相手の出方を見た。
女生徒を、足の裏で踏みつけて。
「きみって、なにもの?」
「普通の高校生の、空手家さ」
最初のコメントを投稿しよう!