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歩みは止まらず、さらに一歩。
こちらの間合いになる。
だが俺は動けない。
さらに質問を、投げかける。
「今までもこうやって、試してきたのか? 罪もない人々を」
「え? うん、試したよ。弱いひとはお呼びじゃないからね」
「お呼びじゃないのはてめぇだ、外道が」
え、とその口が音を発する前に、俺は先手をしかけていた。
地を這い、獲物の胴体を串刺しにするような――前蹴り。
「きゃ……あ、ァ……!」
「息ができないだろう、化け物が」
吸血鬼はつま先が深々と突き刺さった鳩尾を抱えて、蹲る。
それを俺は、無表情に見下ろす。
もはやこんな生き物にかけてやる情など、一ミリもない。
よくよく考えれば最初からこいつは、躊躇いが無かった。
考えてみるべきだった。
俺たちだから、大事にならずに済んだ。
じゃあ俺たちじゃ、なかったら?
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