1.三歩進んで二歩後退

3/21
180人が本棚に入れています
本棚に追加
/31ページ
「なんだよ~話の腰を折るなよ~」 そう編集長が不平をこぼす。幻聴が現実になった瞬間である。 俺は引きつりそうになる顔になんとか笑顔を貼りつけた。 「ちょっとおっしゃってる意味が、わかりかねると、言いますか…」 「だから、今月から川野先生とは別の作家の担当もしてもらうって話だが」 さも当然のように話の腰を戻されて、それが予想通りの内容で、俺はげんなりした。 「もう君も川野先生を担当して半年以上になるし、いいかな~って」 「…それってもう、決定事項なんですか」 「え?そうだけど?」 「えっと…以前からそのような話ってありましたっけ…?」 「いや?今初めて言ったけど」 だから!そういうのはもっと事前に知らせておいて頂けませんかねぇ…! いっつも何事にも急なんだよここの人らは! そんな不満が顔に出ていたのかはわからないが、編集長はんーとどこかわざとらしく考えるような素振りを見せつつ言った。 「それにホラ。君、川野先生の担当ハズレたいって突然言い出したことあったろ?あの時に君に新しく当てる作家の候補を考えたわけだ。あまりにも急だったけど、俺なりにじ~っくり考えたんだよ?君のために」 う。 「まぁ結局元サヤってことになったから?無駄に終わったワケだけど?あーあ~俺の貴重な時間を使って考えたんだがなぁ」 うう。 ソレを持ち出されると、もう何も言い返せない。
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!