1.三歩進んで二歩後退

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ピクリと早瀬さんの肩が揺れた。お。 「……別に好きじゃない。…お前が、勝手に追ってきたんだろ」 顔は伏せたままで、ボソッと返ってきた言葉に苦笑する。 「またまたーそんなこと言っちゃって。俺が追いかけてくるってわかってたんでしょ」 「……あんなに足が遅いとはな」 「それはあんたが全力だからだよ!」 皮肉は遠回しな肯定だった。全く素直じゃない。 ふうとため息をついて、ちらりと隣の彼を見た。そしてそっとその頭に手を伸ばして、ぽんぽんと二度ほど軽く叩く。すると早瀬さんが少し頭をもたげる。 「なにか言いたいことはありますか」 「…………あの女に、」 「真矢さん?」 「………真矢、さん、に…酷いことを言った」 「はい」 「………すまなかったと思っている」 「はい」 早瀬さんは人が苦手だ。 苦手、なんて可愛い言葉で済むのかわからないけど、どうにも接し方がわからないらしい。 人が怖い、という方が正確かもしれない。 虚勢を張りすぎて思ってもないことを口走ってしまっては、その後いつだって自分で凹んでいる。 必要以上に自分を責めたり、自己嫌悪に陥ったり。 まあ、不器用な人なんだ。 それで全部のことが許されるわけではないけど。 誤解されやすい人だ。 だけど。 「…僕はわかってますよ」 「え?」 「あなたがすごく反省してるってこと」 「……」 「さっきぶつかった人にはちゃんと謝れましたね」
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