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ピクリと早瀬さんの肩が揺れた。お。
「……別に好きじゃない。…お前が、勝手に追ってきたんだろ」
顔は伏せたままで、ボソッと返ってきた言葉に苦笑する。
「またまたーそんなこと言っちゃって。俺が追いかけてくるってわかってたんでしょ」
「……あんなに足が遅いとはな」
「それはあんたが全力だからだよ!」
皮肉は遠回しな肯定だった。全く素直じゃない。
ふうとため息をついて、ちらりと隣の彼を見た。そしてそっとその頭に手を伸ばして、ぽんぽんと二度ほど軽く叩く。すると早瀬さんが少し頭をもたげる。
「なにか言いたいことはありますか」
「…………あの女に、」
「真矢さん?」
「………真矢、さん、に…酷いことを言った」
「はい」
「………すまなかったと思っている」
「はい」
早瀬さんは人が苦手だ。
苦手、なんて可愛い言葉で済むのかわからないけど、どうにも接し方がわからないらしい。
人が怖い、という方が正確かもしれない。
虚勢を張りすぎて思ってもないことを口走ってしまっては、その後いつだって自分で凹んでいる。
必要以上に自分を責めたり、自己嫌悪に陥ったり。
まあ、不器用な人なんだ。
それで全部のことが許されるわけではないけど。
誤解されやすい人だ。
だけど。
「…僕はわかってますよ」
「え?」
「あなたがすごく反省してるってこと」
「……」
「さっきぶつかった人にはちゃんと謝れましたね」
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