1.三歩進んで二歩後退

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「……」 「……」 目も合わせられずに、無言。 お互いの照れが充満して、それがわずかに甘やかな空気に変わっていく。 だから少し、これはチャンスだとばかりに、しかけてみることにした。 「……もし、本当に俺が優しいんだとすればそれは…」 「ん?」 「それは、あんただから特別…なんです」 「俺だから…?」 「だって僕ら…こ、恋人でしょ」 ちょっと緊張しつつ、なんとか声を絞り出した。 言った瞬間からじわじわと顔が熱くなる。あーくそ。 こういうことは口に出す性分じゃない。 けど、この人にはちゃんと言わないと1ミリも伝わらないのは経験上知っているし。 …それに、たま~にこうしてアピっとかないと、なかったことになってしまいそうで。 なんだかんだと色々あって。 どんな運命の悪戯か、ひっそりと想いを寄せていたこの人の"恋人"という称号を頂いた。 それからもうひと月が経つが、俺と早瀬さんの間で何か変化があったかと聞かれれば答えはNOだ。 幸か不幸か仕事に追われているうちに、ひと月過ぎて。 それくらい俺と早瀬さんの今の関係は、微妙なところにある。 「こいびと…」 「……」 うすぼんやりとおうむ返しに呟く早瀬さんにイヤな予感。マジでもうなかったことになってたり…しねぇよな? さすがにねぇよな…? 「……その設定、まだ生きてたんだな」 「設定とか言わないで!?つかどういう意味ですかそれ!」 わめけば、早瀬さんが俺の手からやんわりと逃れた。そして微妙に距離を取られる。 ちょ、それ普通に傷つくんですけど…!
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