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「……」
「……」
目も合わせられずに、無言。
お互いの照れが充満して、それがわずかに甘やかな空気に変わっていく。
だから少し、これはチャンスだとばかりに、しかけてみることにした。
「……もし、本当に俺が優しいんだとすればそれは…」
「ん?」
「それは、あんただから特別…なんです」
「俺だから…?」
「だって僕ら…こ、恋人でしょ」
ちょっと緊張しつつ、なんとか声を絞り出した。
言った瞬間からじわじわと顔が熱くなる。あーくそ。
こういうことは口に出す性分じゃない。
けど、この人にはちゃんと言わないと1ミリも伝わらないのは経験上知っているし。
…それに、たま~にこうしてアピっとかないと、なかったことになってしまいそうで。
なんだかんだと色々あって。
どんな運命の悪戯か、ひっそりと想いを寄せていたこの人の"恋人"という称号を頂いた。
それからもうひと月が経つが、俺と早瀬さんの間で何か変化があったかと聞かれれば答えはNOだ。
幸か不幸か仕事に追われているうちに、ひと月過ぎて。
それくらい俺と早瀬さんの今の関係は、微妙なところにある。
「こいびと…」
「……」
うすぼんやりとおうむ返しに呟く早瀬さんにイヤな予感。マジでもうなかったことになってたり…しねぇよな?
さすがにねぇよな…?
「……その設定、まだ生きてたんだな」
「設定とか言わないで!?つかどういう意味ですかそれ!」
わめけば、早瀬さんが俺の手からやんわりと逃れた。そして微妙に距離を取られる。
ちょ、それ普通に傷つくんですけど…!
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