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そうして重い(早瀬さんの)足を引きずるように、編集部に戻ると編集長に声をかけられた。
「おお、戻ってきたか。大丈夫か?」
そこでチラリと早瀬さんに目をやれば、彼もまたこちらをチラリと見た。なので、一度だけ頷き返す。
すると早瀬さんは、覚悟を決めたように口を開いた。
「…先程は、本当に失礼いたしました」
言いながら頭を下げる。俺も隣でそれにならい「すみませんでした」と頭を下げた。
編集長の様子を伺うと彼は一瞬きょとんとして、次いで快活に笑った。
「はっはっはっ!そんな近所の雷親父んちの窓割っちゃった子供みたいな顔して!いいよいいよ、気にしてないから」
編集長はそんな昭和の香り漂う比喩表現を用いてあっけらかんと言った。正直ちょっと拍子抜けする。
「まぁこれから色々と関わることもあるだろうから、よろしく頼むよ」
言われた早瀬さんは、まだ少し警戒しつつも頷いて返した。
穏やかに笑う編集長は、好意的に接しつつ適度な距離を保っている。一度まみえた瞬間に、早瀬さんの性質を察したらしい。さすが、人心掌握の鬼。
「それより、ちょうど良かったよ。皆から聞いたけど君、川野先生のアシスタントなんだってね?」
編集長が君、と早瀬さんを見た。
「ちょっと君らに会いたいって言ってる人がいるんだ」
そう言った編集長の後ろの会議室の戸口から、一人の男の人が入ってきた。
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