1.三歩進んで二歩後退

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12月に入ると風は冷たくなって、空気も張り詰めたように感じられる。朝なんかかなり冷え込んで、まさに冬本番が始まるといった感じだ。 駅から会社までにある並木道。 落ち葉に覆われた舗道を、サクサクと心地よい音を立てながら歩く。 通りにある店なんかは少し前までハロウィン一色だったのに、すっかりクリスマス商戦に乗りかえている。 そんな店々に目をやりながら黙々と歩く。 そして、すぐ後ろから聞こえるもう一つの足音。 …… 「で、今月から担当増やすって話だけど」 「はい?」 編集長のデスクになんの前触れもなく呼び出されて、そんな言葉を告げられたのは11月の頭のことだ。 雰囲気のあるダンディーな笑顔でにっこり微笑む編集長。俺は反射的に聞き返す。 「君に新しく担当してもらうのがこの作家と…」 「え、え、え?あの、ちょっと待ってください!」 しかし俺の反応なんぞ気にも留めない様子で、何やら資料に目を落としながら言う編集長に、思わず待ったをかけた。 だって、なんの話だかさっぱりわからない。 …いや、本当はうっすら察しはついているが、正直認めたくはない。 担当増やす? とか、今言った?そう聞こえた? 俺、初耳ですけど? 「ん?」 心底不思議そうに編集長が聞き返す。 なんだよ~話の腰を折るなよ~、なんて幻聴すら聞こえてきそうだ。
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