1.三歩進んで二歩後退

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「映像プロデューサーの山本君だ」 そう紹介された男性は、背筋をぴしっと伸ばし俺と早瀬さんの前に立った。 「はじめまして、山本健吾です」 そう言ってにこりと山本さんが微笑んだ瞬間、編集部室に高原の風が吹きわたった。 背後には青空と草原が見える。なんなら鳥のさえずりすら聞こえる。ここはどこだ、軽井沢か。 つまり何が言いたいかといえば。 (圧倒的爽やか…!) ということだ。 彼の爽やかさに呑まれつつ、俺も自己紹介すべく口を開けようとした。のだが。 「ちゃら恋の担当編集さんの相良さん、ですよね」 「え、は、はい」 「真矢からお名前をよく聞いてました。あ、真矢とは実は同期でして。あいつ、相良さんのこと実力のあるヤツだってよく褒めてるんですよ」 これ僕が言ったってのは内緒ですよーと声をひそめてはにかんで見せる。 その仕草表情声色、何から何まで爽やか。徹頭徹尾爽やか。爽やか過ぎて正直話の内容が頭に入ってこなかった。どんだけ。 何その爽やかのバーゲンセール。風早くんかよ。 そんな爽やかがスーツ着て歩いてるみたいな山本さんは、今度は早瀬さんに向き直った。びくりとわずかに早瀬さんの肩が揺れる。がんばれ。 「えっと、こちらは…」 「ああ、彼は早瀬君。ちゃら恋で川野先生のアシスタントをしてるそうだ」 そう編集長が早瀬さんを紹介すると…山本さんの輝きが3割り増しになった。 気がする。
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