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コホンコホン、と催促の合図を飛ばすも、反応がまるで返ってこない。
「…ちょっとお待ちくださいね」
俺は慌てて部屋の外に出た。
そんな様子を固唾を呑んで見守る編集部一同。
「ーちょっと!なんで入って来ないんですか!僕が良いって言ったら入ってくるって、そう言いましたよね!」
精一杯の小声で説得を試みる。
姿の見えない来訪者とヒソヒソやる俺、を珍妙な顔つきで見守る編集部一同。
「はぁ!?今日は帰る?そんなこと言って前も逃亡したじゃないですか!今日こそは帰らせませんよ!」
俺は壁にへばりついているその来訪者の腕を力任せにぐいっと引いた。
すると姿を頑なに現さなかった来訪者は、「わっ!」と上擦った声をわずかにあげて、扉口の前にさらされた。
その背中を押して室内に押し入れる。そして、俺は先手を打つべくこう高らかに言った。
「この方こそが、『ちゃらんぽらんでも恋したいっ!』の作者であられる川野せせら、ぎィッ!?」
突然足に激痛が走り、俺の言葉を遮った。
壁と一体化しかけていた来訪者が、最後の力を振り絞ったくらいの勢いで俺の足を踏んづけたのだ。
抗議の意味を込めて隣に目をやれば、蒼白な顔ながらなかなかの目力で睨みつけられる。
…俺は小声で「スミマセン…」と謝った。なぜ踏まれた俺が謝らないといけないのか。
「…彼は、ちゃら恋作者川野せせらぎ先生…の、アシスタントさんの早瀬良太さんです…」
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